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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

見さかいというものを知らぬ女だから、別に毒を注すとも思わずに、無意識にそういったかも知れない。しかしかれはもはや女のために弁解してやる必要を少しも感じない。そして取り合いもしなかった。

父親は茶室に籠って茶道に精進している。そして宗匠から伝えられてくる手前を繰返し繰返し復習してから、控帳へ書き留めをする。それが殆ど毎日の仕事である。女が相手をする。名家の育ちだけあってものごしは上品で、言葉つきもやさしい。色は衰えたといってもまだ残んの春を蓄えている。面だちは長年の放埒で荒んだやつれも見えるが、目もと口もとには散りかけた花の感傷的な気分の反映がある。そういう女を茶室のうちに据えて見れば、艶めかしく風流でないこともない。

その女と共に鶴見の継母も相手になる。順番に炉の前で、複雑な手前をする。

継母もさる支藩邸の奥向きを勤めて、手もよく書けば歌道も一通り心得ている。継母はこの女を嫌っていた。その心理はよくわかる。父親は父親で、この母が手もうまく和歌も相応によむのを何か出来過ぎでもあるようにして嫌っていた。それも思えば口実であったろう。そして時々訪ねてくる歌の師匠の老人をも嫌っていた。