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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

「手相も馬鹿にはできないね。」と、藤村はそこを出てからいった。

「当るような、当らぬようなことをいっておいて、実はこちらで判断するように仕向けるのですな。どうして、どうして手馴れたものだ。」誰にいいかけるでもなく、そういっている藤村の言葉を聞き放して、鶴見はひとりで嘯いていた。

これで浅草へ遊行を試みた意義は完了したことになる。

藤村が東京を引き払って、信州の小諸に赴任して浅間山のふもとで新生活をはじめたのはそれから一と月たたぬうちであった。藤村の芸術的生涯の第一期が、ここにまた完成を告げたのである。

その藤村が今では大磯の土に親んで、記念の梅樹の下にその魂を寄せている。藤村も宗祇や芭蕉と同じように自庵では死なないで、ずっと広い世界に涯ない旅をつづけている、死んで永遠に生きるのである。それをおもえばよい死かたをしたものと、羨しくもある。これはこころがけていても、たやすくは出来がたいことであろう。

「妓に与ふ」と題した自作の歌を自書して、簡単に表装したのを壁にかけてある。その軸物におりおり眼をやって、盞をふくむ。酒を飲んでくつろげばくつろぐほど胸元がはだけて、そこから胸毛をのぞかせる。