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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

鶴見がここで親友といっているのは岩野泡鳴のことである。

泡鳴はいきなり、「これから一風呂浴びに行こう。どこか近所に銭湯があるだろう。」

それはやはり暑さの烈しい夏の午後のことであった。

鶴見は泡鳴を案内して行きつけの風呂屋に出掛けた。能登湯といって、その頃は入口の欄間に五色の硝子が装われていた。それだけやっと近代化した伝統のある家で、浅葱の暖簾を昔ながらにまだ懸けていたかと思う。そこの若主人は鶴見の学校友達であった。

鶴見は湯につかりながら、もとはこの湯槽の前を絵板が嵌め込みになっていて、そのために湯槽はその高さの半を覆われて、外から内を見透すことは出来ない。絵板はあくどい彩具で塗られている。それを柘榴口といって、そこを潜って、足掛の踏段を上って、湯槽にはいるのである。自然湯槽は高くなっている。今のように低くなったのを温泉といっていた。そんなことを想いだすままに泡鳴に説明した。また鶴見の稚かった時分には、表二階に意気な婆あさんがいて、折々三味線の音じめが聞える。町内の若衆を相手に常磐津でも浚っていたのだろう。湯女の後身かも知れない。そのこともついでにいわずにはおかなかった。