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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
ただ彼の作家かたぎが、彼をして後からその行動を豊富な経験として客観せしめた。そうでなければ、彼の生涯は悲壮な色を極度に帯びていたに違いない。しかるに彼は存外楽観的であった。それが慣習となって、その効果が一面抜目がなく如才のない性格を彼に附与した。それがために時としては狡猾とさえ思われた。
泡鳴はいつも物質に惑溺していて、その惑溺のうちに恋愛と神性とを求めていた。彼は暫くも傍観者として立ってはいられなかった。人生に対する観察はいよいよ手馴らされ、皮肉になり、それと共に彼の好奇心は弥が上にも昂進して行った。
鶴見はこの頃になって、泡鳴をバルザックに比較して考えて見るようになった。両者の間に相似点がある。押詰めて検討して行けばおもしろかろうなどと思っている。
泡鳴の晩年にはそういう状態が既に熟していたが、鶴見を銭湯に促がした時分の泡鳴にも早くそれらの傾向は現われていたのである。好奇の心を養うためには犠牲を要する。その犠牲に手を伸す貪婪さを彼ぐらい露骨に示したものも少かろう。鶴見が銭湯に誘われたのを犠牲と呼ぶには当らないが、どういうものか、そういうような気持がふと心のなかを掠めて行った。