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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
鶴見は自分の年とったことは余り考えずに、梅の老木になって栄えているのを喜んでいる。
鶴見は震災後静岡へ行って、そこで居ついていたが、前にもいった通り戦火に脅かされて丸裸になり、ちょうど渡鳥が本能でするように、またもとの古巣に舞い戻って来たのである。かれにはそうするつもりは全くなかったのであるが、ふとしてそういうことになったのを、必然の筋道に牽かされたものとして解釈している。安心のただ一つの拠りどころが残されてある。彼はそこを新たに発見した。そういう風に考えているのである。ただし当今はどこにいたとて不如意なことに変りはない。それにしても古巣は古巣だけのことはある。因縁の繋がりのある場所に寝起きをするということが、鶴見をその生活のいらだたしさから次第に落ち著けた。殊に今日は梅の老木に花が匂い出したのを見て、心の中でその風趣をいたわりながら、いつまでもその余香を嗅いでいるのである。
この鶴見というのは一体どういう人間なのであろうか。かれは名を正根といって、はやくから文芸の道にたずさわっていたので、黙子なんぞという筆名で多少知られている。学歴とてもなく、知友にも乏しかったかれは、いつでも孤立のほかはなかった。