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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

鴎外はいかなる場合にも科学的態度を崩さずにいた。あるいはこれを装って芸術に臨んでいたといっても好い。そして冒すべからざる冷静沈著のうちに、やがてその一生を終った。一毫の差をもゆるがせにしなかった、あの細密な検討の心構えについては時に応じてこれを説き、自己の製作にこれを施して、遂に倦むことを知らなかった。そしてこの無常の世の中で科学だけが大きい未来を有している。発展する望みがある。そういうことを、鴎外は『妄想』の結末で、鴎荘の白髪の翁に語らせている。

鶴見はそこを読み終って、その一貫した主張と倦むことを知らざる精神とに感動した。しかし読後の感はそれだけではなかった。

鴎外の倦まざる精神は専ら科学の信頼に向けられている。それは一先ず肯定されよう。しかして鴎外は人間行為の無常なるためしとして芸術を蔑にしないまでも、その未来性を疑っていたのであろうか。それでは余りに矛盾が大き過ぎる。鶴見の読後感には何かそういった思想の乖離があった。よそよそしさがあった。それを長い間どうすることも出来ないでいた。鴎外は他を言っているのではなかろうか。自己を韜晦しているのではなかろうか。