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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
鶴見の経験から推量しての言草であるが、それを手離しでひっ込めようとする気にはなれない。
鴎外は名を知って物を知らぬということを、『サフラン』の書き出しに述べている。鶴見が夾竹桃の名を知ったのは明治二十五年の夏である。それまではどうであったかというに、東京で生れた彼は、実際のところ、その名をすら知らないでいたのである。名を知ったのは実物を見たのと同時であった。
この経験からいえば、夾竹桃の伝来は明治十年代でなければならぬように思われる。一個人の偶然の経験というものは確証には供し難い。譲歩はしなければなるまい。それはしようが、いくら譲歩して見ても、馬鈴薯の例などを参照して、先ず徳川時代の末か維新当座の頃ということになる。
鴎外が『阿部一族』で夾竹桃を使ったのには、何か拠りどころがあったであろう。『「プルムウラ」の由来』を見ると、脚本を書くとき、その現地の時候や花卉のことまで当って見ねばならぬといってある。鴎外の文の精確であることは、いつもそれだけの用意を欠かさなかったところにある。
鶴見は今更のように、いらざる疑念を起したものとして、ひたすらに困惑するのみである。