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ゆめどのさつじんじけん

夢殿殺人事件

小栗 虫太郎

「改造」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,755 字 · 55 页

青空文庫

「そうしますと法水さん、その司教と置き換えられた私は、一体何処から入って何処から出た事になるのでしょうか。実を申しますと、今も入口の網扉を私は故意と半開きにして置いたのですよ。あの網扉の音は河原までも響きますし、厨子扉には、当時もやはり錠前が下りていたのです。それに、智凡尼が入った時には、二階で笙を吹いている者がありました。ねえ法水さん、この夢殿は密室だったのですよ。密閉された室の中で、一体孔雀明王と供奉鳥以外に誰がいた事になりましょうかね」

密室、しかもその中で、大量の血が消え失せてしまっている――。流石の法水も、ハタと行き詰まって、まざまざとその顔には、羞恥と動揺の色が現われた。

二、火焔太鼓の秘密

盤得尼が去ってから、尚も三階の一劃を調べたけれども、そこには何一つ発見されなかった。そして、再び二階に下りると、法水は油時計を指差して云った。

「判ったのは、たったこれだけさ。一時十五分に発見した時消えていたと云う油時計が、何故二時を指しているか――なんだ。その気狂い染みた進み方からして、犯人が小窓を開いた時刻が判るのだがね」

「そうすると、多分消えたのは、金泥が散った時じゃないだろうか」