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ゆめ
夢
和辻 哲郎
「新潮」1952(昭和27)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,436 字 · 25 页
一々名宛てを書いて、別々の文句が記されていた。それは大会場へ赴くためにあらゆる便宜を供与してもらいたいという意味のものである。わたくしは、おやこんなものを持っていたのかと思いながら、それを和尚さんに渡した。和尚さんはそれを見ると急に態度をかえて、部下に早く電話をかけろと命令した。
その時にわたくしは時計を見た。十一時三十分であった。わたくしは、あゝとうとう間に合わなかったかと思った。そこで目がさめた。
この夢にシカゴの大統領指名大会とかマッカーサーの基調演説とかが反映していることは明らかであろう。またその基調演説が行なわれる前であったということも重要な関係を持っているであろう。その演説を阻止する契機として洪水が出てくるのは、多分その晩に雨が降ったせいであろうと思われる。しかしその洪水が、濁水の奔流としてでなく、透きとおった水の停滞した姿で現われて来たのは、実に案外である。わたくしは洪水で見渡す限り一面に泥海になるという光景を見たことがある。また逆巻く濁流のなかに田舎家の流されて行くのを見たこともある。しかし澄んだ水の洪水というのは、ただ一度、明治四十年の秋に、河口湖で見ただけである。