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ゆめ
夢
和辻 哲郎
「新潮」1952(昭和27)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,436 字 · 25 页
その時は春山武松君などと一緒に富士五湖めぐりをやったのであるが、船津で泊まって翌日舟で河口湖を渡るときに、湖水の水の下に立ったままの唐もろこしの畑などが見えた。船頭の説明によると、その夏の豪雨の時に湖水の水位が一丈何尺とか上がり、周囲の畑に水をかぶったまま、まだ減水しないのだということであった。つまりその時には、平生の畑の上を舟でとおっていたのである。その時の経験以外には、どう考えて見ても、水の底に往来が見えるなどという光景の思い浮かべられる機縁がない。して見るとこの夢には、前の晩に読んだ夕刊の記事と一緒に、四十何年か前の印象が蘇って来ているとしなくてはならない。まことにでたらめなものである。
わたくしはこの久しぶりの夢を回想してあんまりいい気持ちがしない。ヒルティの言葉が本当なら、全くやり切れないなと思う。いくらなんでもあんまりケチ臭すぎる。その上、前の夢と違ってその後年月が経っていないのであるから、この夢の中の予言的な要素などを見つけ出してくることもできない。だからこの夢を書いて見ようと思ったときに、いきなり、痴人夢を説くという言葉が頭に浮かんだのである。