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おおいなるもの
大いなるもの
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,492 字 · 7 页
如何なる事に於ても、其を一貫した「実」と云うものがなければ、其は、その形骸のみをそなえて最も尊い霊を失ったものである。
世の中のあらゆるものに「真」のないものは決して長生する事は出来ない。
聖ダンテの「神曲」は、何故今日まで不朽に生命を受けて居るか。
永遠に変らざる「真」がその一言の中にも輝いて居るからでは無いか。
ホーマーもミルトンも、只「真」の一字がある故に尊いではないか。
孔子、基督、その他あらゆる人々の頭上高く、真の光りに被われて居たが故に偉大なのである。
道徳も、芸術も宗教も、その源は此の「真」と云う一字のみである。
「真」外見はまことに厳格なものらしい面持をして居るけれ共、その胸の中には、完全な感情を育んで居るものである。
「真」は親を愛する事も、他人を愛する事をも知って居る。
故に、基督は、「汝の敵を愛せよ」と叫んだ。
何故に、汝の敵を忘れよと叫んだか。
それは、自己のためにである。
又とない尊い自分のためにである。
絶えず心眼にうとましい敵の姿をうかべて、影の多い心になるのを厭うたからではないか。
キリストは自己のために万人を救うたのだと云うたワイルドの言を正しいと思う。