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おおとりものせんにんつぼ
大捕物仙人壺
国枝 史郎
「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页
亢奮するばかりが能ではない。宇内の大勢も心得ず、人斬包丁ばかり振り廻すのは人間の屑と云わなければならない。……いい音締だな小気味のよい音色だ」
それは呟いているのではなく、大声で喋舌っているのであった。背後に迫って来た刺客の一人へ、聞かせようとして喋舌っているらしい。
宵ながら町はひっそりと寂れ、時々遙かの方角から脱走兵の打つらしい小銃の音が響いてきたが、その他には犬の声さえしない。
その静寂を貫いて、咽ぶがような、清元の音色が、一脈綿々と流れてきた。
刺客の一人は立ち止まり、じっと安房守を見守った。その安房守は背を向けたまま、平然として立っていた。まことに斬りよい姿勢であった。一刀に斬ることが出来そうであった。
それだのに刺客は斬らなかった。一間ばかりの手前に立ち、ただじっと見詰めていた。彼は機先を制されたのであった。叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)するような安房守の言葉に、強く胸を打たれたのであった。しかし今にも抜き放そうとして、しっかり握っている右の手を柄から放そうとはしなかった。
「斬らなければならない! たたっ斬らなければならない! 二股武士、勝安房守! だが不思議だな、斬ることが出来ない」