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おおとりものせんにんつぼ
大捕物仙人壺
国枝 史郎
「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页
武術は島田虎之助に学び、蘭学は永井青涯に師事し、一世を空うする英雄であったが、慶喜に一切を任せられるに及び、大久保一翁、山岡鐡舟などと、東奔西走心胆を砕き、一方旗本の暴挙を訓め、他方官軍の江戸攻撃を食い止めようと努力した。
幕臣の中過激な者は、その安房守の遣り口を、手ぬるいと攻撃するばかりでなく、徳川を売って官軍に従く獅子身中の虫だと云って、暗殺しようとさえ企てた。
それを避けなければならなかった。
日々幕兵は脱走した。それを引き止めなければならなかった。
で、この夜もただ一人府内の動静を探ろうとして、こうして歩いているのであった。
20
芝口の辻を北へ曲がり安房守は悠々と歩いて行った。
下桜田まで来た時であった。ふと彼は足を止めた。その機会を狙ったのであろう、刺客の一人が群を離れ、颯と安房守の背後に迫った。
と、突然安房守が云った。
「うむ、日本は大丈夫だ! この騒乱の巷の中で、三味線を弾いている者がある。うむ、曲は『山姥』だな。……唄声にも乱れがない。撥さばきも鮮なものだ。……いい度胸だな。感心な度胸だ。人は須くこうなくてはならない。蠢動するばかりが能ではない。