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おおとりものせんにんつぼ

大捕物仙人壺

国枝 史郎

「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页

青空文庫

「ああいう事件があった後だ、多少体を痛めたのかもしれない」

無理もないことだと思うのであった。

その翌日のことであったが、一日暇を戴きたいと、小間使いのお花が云い出した。

「ああいいとも、暇を上げよう。親元へでも帰るのかな」

「はい、あの神田の兄の許へ」

「おおその神田の兄さんとやらは、お上のご用を聞いているそうだな」

「はい、さようでございます」

「ゆっくり遊んで来るがよい」

「はい、それでは夕景まで」

小さい風呂敷の包を抱き、小間使のお花は屋敷を出た。

神田小川町の奥まった露路に、岡引の友蔵の住居があった。荒い格子には春昼の陽が、鮮に黄色くあたっていた。

「嫂さんこんにちわ」と云いながら、お花は門の格子をあけた。

「おやお花さん、よく来たね」声と一緒にあらわれたのは、友蔵の家内のお巻であった。三十前後の仇っぽい女で、茶屋上りとは一眼で知れた。

「これはお土産、つまらない物よ」

「よせばよいのに、お気の毒ねえ」

「それはそうと兄さんはいて。妾ちょっと用があるのよ」

「おお、お花か、何だ何だ」

これは友蔵の声であった。

友蔵は茶の間の長火鉢の前で、湯呑で昼酒を飲んでいた。