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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
23 他生の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页
お雪は、その由を聞いて安心しましたが、疑えば疑えないことはない。第一木曾路を通るものが、ここへ道を間違えたとは間違え過ぎる。しかしそれとても昔の歴史をたどってみれば、全く無理な間違え方ともいえないので、この一行が宿へ到着して、一浴を試みてから炉辺へかたまっての話に、
「上方から東国への道は、この辺が祖道になるのだ。大同年中に伝教大師が衆生化導のためとて東国へ下る時に、上神坂越えとあって、つまり飛騨の高山あたり、笠ヶ岳の下、焼ヶ岳の裏を今の上高地を経て、あの島々谷を松本平方面に出られたに違いない。伝教大師もこの道ではよほど難渋されたと見えて、広済、広極という二院を山中に立てて、後の旅人を憩わしむるようにされたとのことだが、その時代、路らしいものはあったにはあったと思われる。しかし、なにしろ今にしてもこの有様だから、大同年間のことは思われるばかりだ。高僧智識が捨身無一物の信念を以て通るか、しからざれば、天下に旅する豪気の武士でなければ覚束ない。上神坂越えの難たることは、まさに天に上るの難よりも難かったに相違ない」
と説明するところを見れば、地の理にも、歴史にも、そう暗い人たちとは思えません。