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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

「その竪の一眼は、愛染明王の淫眼といって、ことに意味深い表徴になっている」

「ナニ、いんがん」

「左様」

「どういう字を書くのだ」

「淫は富貴に淫するの淫の字――これは愛染明王が大貪著時代の拭うても拭いきれない遺品だ。横の両眼は悪心降伏の害毒削除の威力を示すが、竪の淫眼のみは、いつでも貪著と、染悪と、醜劣と、汚辱とを覗いてやまぬものだ」

「ははあ……」

神尾主膳は苦笑いしながら、何か当てつけられたように感じました。

暫くしてこの二人は、久しぶりで一石囲むことになって、おたがいに多忙の心を盤の上に忘れてしまいます。

当分は、この住職殿も、この屋敷の厄介になることだろう。

一方、廊下の隅の一間には、裏宿の七兵衛がドッカとみこしを据えてしまいました。

いつも風のように来ては風のように去る男が、今度は動こうともしないで、その一室をわが物ときめこんで、割拠して敢てくだらず、という意気込みです。

そうして、夜になると、蝋燭をともしてザラリザラリとキザな音をさせる。

これは相変らず、金銀、小粒、豆板、南鐐、取交ぜた銭勘定をしているに違いないが、金に渇えているお絹にとっては、この音が気障でたまらない。