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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

道庵先生は、丁寧親切に米友に向って、道中の心得を説いて聞かせているつもりだが、酒を飲むなの、色慾を慎めのということは、この男にとってはよけいな忠告で、御本人の方がよっぽどあぶないものです。

それでも米友は神妙に聞いていると、ほどなく板橋の宿へ入りました。

「さあ、米友様、ここが板橋といって中仙道では親宿だ。これから江戸へは二里八丁、京へ百三十三里十四丁ということになっている、先は長いから、まあいっぷくやって行こう」

と、あるお茶屋へ休みました。

こうして二人がつれ立って歩くと、こまったことには道庵の方はそれほどでもないが、米友の姿を見て、みかえらないものはないことです。極めて背の低いのが、もう袷を重ねようという時分に、素肌に盲目縞の単衣で元気よく、人並より背のひょろ高い道庵のあとを、後れもせずに跛足の足で飛んで行く恰好がおかしいといって、みかえるほどのものが笑います。

「やあ、チンチクリンが通らあ……」

正直な子供たちは、わざわざ路次のうちから飛んで出て、米友の周囲にむらがるのです。

そのたびごとに、米友に腹を立たせまいとする道庵の苦心も、並々ではありません。