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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

「なるほど」

「旅籠屋へ着いたら、第一にその土地の東西南北の方角をよく聞き定めて、家作りから雪隠、裏表の口々を見覚えておくこと……」

「うん」

「もしまた、馬や、駕籠や、人足の用があらば、宵のうちに宿屋の亭主にあってよく頼んでおくがよい、相対でやると途中困ることがあるものだ。朝起きては膳の用意をするまでに仕度をして、草鞋をはくばかりにして膳に向うようにしなくちゃならねえ」

「うん」

「朝はせわしいものだから、よく落し物をする故、宵のうちによく取調べて、風呂敷へ包んで取落さぬようにしなくちゃならねえ」

「なるほど」

「旅籠屋は定宿があれば、それに越したことはないが、初めてのところでは、なるたけ家作りのよい賑やかな宿屋へ泊ることだ、少々高くてもその方が得だ」

「そうかなあ」

「道中で腹が減ったからといって、無暗に物を食ってはいけねえ、また空腹へ酒を飲むのも感心しねえ……酒を飲むなら食後がいいな、暑寒ともにあたためて飲むことだよ、冷は感心しねえ」

「おいらは酒は飲まねえ」

と米友がいいました。

「そうか、では道中は、別してまた色慾を慎まなければならぬ……道中には、飯盛だの売女だのというものがあって、そういうものには得て湿毒というものがある」