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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
23 他生の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页
泊り客を見かけては道庵がいちいち、途中で手折って来た槐のような木の枝を渡していうことには、
「これは苦参といって蚤よけのおまじないになる。見かけたところ、この宿屋には蚤がいるにちげえねえ、これを蒲団のしたにしいてお寝」
おかげさまで、その晩は蚤に食われなかったお礼をいうものがありました。そこで米友には、道庵の道草の理由がわかり、
「先生のすることにソツはねえ」
といまさらのように、感心をしてしまいました。
浦和から大宮、武蔵の国の一の宮、氷川大明神へ参詣して、またまた米友をおどろかせたのは、道庵先生が見かけによらず敬神家で、いとねんごろに参拝祈願する体を見て驚嘆しました。この先生、いいかげんのおひゃらかしだと思っているとあてがちがう。この殊勝な参拝ぶりを見て、正直な米友が、いよいよ感心をしてしまったのも無理はありません。しかしあとでいうことには、
「すべて、神仏を大切にすることを知らねえ奴に、ロクな奴があったためしがねえ、国々へ行って見な、いい国主ほど神仏を大切にしてらあ、人間だってお前、エラクなるぐらいのやつは、エライものの有難味を知ってらあな、薄っぺらなやつだけが神仏を粗末にする」