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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

とみいちゃんがいう。

「立廻りのキビキビした男前のいいこと、千両役者だけあるわね」

とはあちゃんがいう。

「海老蔵もいいが、月形は熱心で、牧野の頭のいいところが感心だ」

などと、お茶っ葉の提灯を持つ折助の若いのがいう。名優を随喜渇仰するもろもろの声を聞き流して、道庵主従はこの盛り場から町筋をうろつきました。

しかし、いくら祭礼の夜とはいえ、松本の城下に、こんなお笑い草ばかり転がっているわけではありません。

行くこと暫くにして、とある門構えの黒板塀の賤しからぬ屋敷の前へ来ると、道庵はお祭りの提灯の光で、門の表札を眺めて突立っていたが、

「占めたッ!」

と叫びました。

例によって米友には、何を占めたのかわからない。

「友様」

道庵はその門構えの前に立って米友を顧み、

「友様」

「何だ」

「占めたぞ、今晩の宿が見つかった」

米友にはいよいよわからない。ことによったら武者修行の手を行くのではなかろうかと気がついたが、どうもその家の構えは武芸者の構えらしくない。邸内は相当に広いようだが、道場らしい建物があるようにも思われません。

ところが、道庵はまず以て穏かに事情を告げてしまいました。