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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

しかし、当人はいっこう気取った様子もなく、のこのこと歩いて、やがてお角とすれすれの所まで来まして、さて、これから、江戸のいずれの方面に向って歩みを移そうかと、ちょっと思案の体に見えました。

「モシ、あの、ちょっと失礼でございますが……」

と、その異様な人物に、まず物をいいかけたのはお角でありました。

「あ、何ですか?」

と蝙蝠傘の主は、あわただしく下界を見下ろすように身をかがめて返事をしますと、

「つかぬことを承るようでございますが、あなた様は房州の方からおいでになりましたのですか?」

「あ、房州から来ましたよ」

白雲は、この女の姿を見下ろして、それがよくわかったなと言わぬばかりの顔色です。

「房州は洲崎からおいでになりましたのでしょう」

「ええ、洲崎から来ましたが、それが、どうしてわかります」

白雲は、自分の蝙蝠傘にそれが記してあるのではないかとさえ疑いましたが、黒張りの傘に、無論そんな文字はありません。

「あの洲崎は駒井能登守様のお仕事場からおいでになりましたね」

「ど、どうして、そのことまで、お前さんにわかりますな」

「ホ、ホ、ホ……」

とお角が笑いました。田山白雲は、いささかどぎまぎして、