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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
24 流転の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页
その首を自分の机にさしおいたことを覚えている。
してみれば、あの狂女と、この少年の間に、何か奇しき因縁があるに違いない。そこで白雲も妙な心持になり、
「杭州に美女あり、その面白玉の如く、夜な夜な破狼橋の下に来って妖童を見る……」
と口吟みました。
十
鏡ヶ浦に雲が低く垂れて陰鬱極まる日、駒井甚三郎は洲崎の試験所にあって、洋書をひろげて読み、読んではその要所要所を翻訳して、ノートに書き留め、読み返して沈吟しておりました。
「フランソア・ザビエル師ノ曰ク、予ノ見ル所ヲ以テスレバ、善良ナル性質ヲ有スルコト日本人ノ如キハ、世界ノ国民ノウチ甚ダ稀ナリ。彼等ガ虚言ヲ吐キ、詐偽ヲ働クガ如キハ嘗テ聞カザル所ニシテ、人ニ向ツテハ極メテ親切ナリ。且ツ、名誉ヲ重ンズルノ念強クシテ、時トシテハ殆ド名誉ノ奴隷タルガ如キ観アリ」
こう書いてみて駒井は、果してこれが真実だろうか、どうかと怪しみました。フランソア・ザビエル師は、天文年間、初めて日本へ渡って来た宣教師。ただ日本人のいいところだけ見て、悪いところを見なかったのだろう。それとも一遍のお世辞ではないか――さて黙して読むことまた少時。