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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

30 畜生谷の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页

青空文庫

三万六千ばい入って来たんですよ、それに毛唐人が五億十万人……全くその通りなんだから、お逃げなさいよ――とでも、大きな声で叫んでやりたいような気持でした。

そうして、片腹の痛い思いをしながら、やはりこの無人の境に駕籠を飛ばせて行くと、その行手にたった一箇、傍若無人――事実上無人なのですが――に、悠々閑々と大八車が進んで行くものですから、あっといって、やや心を強くしました。

やっぱり腰抜けばかりじゃないわ、ああした度胸の据った人もある、車力には惜しい度胸だ、こう思いつつあるお角を乗せた早駕籠が、早くも大八車をすり抜けた途端に、お角は、この悠々閑々たる勇者の面を見てやりたいと思ってのぞくと、それが見紛うべくもなき宇治山田の米友でしたから、

「おやおや、友さんかエ」

四十五

早駕籠をとめさせたお角が、

「友さんじゃないかエ」

「あっ! 親方」

米友は舌を捲いて、梶棒を控えました。

「友さん、お前、いつ車力になったの」

「ええ、その、ちょっと、都合があるものですから」

「いい御苦労だねえ」

「そういうわけじゃねえんだがね、よんどころなく、つい……」

「そうして、お前、その車を引っぱってどこへ行こうというの」