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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

30 畜生谷の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页

青空文庫

ところが、道場に満つる人々が、この傍若無人の小冠者の振舞を怪しともせず、彼が入り来った最初から、ほとんどが膝を組み直し、頭を下げて、ひたすら尊敬の意を表する有様が、いかにもいぶかしい。

二三名を、こなしている間、篤と兵馬の剣術ぶりを注視していたこの小冠者は、

「おお、見事見事、わたしにも指南してたも」

と、早くも道具をつけにかかる。兵馬には、稽古中から、この異様な貴公子の挙動が解しきれないものであったが、いかにも小気味よく稽古をこうのだから、辞すべき理由は少しもありません。

竹刀を取れば、天下に有数の宗師は知らぬこと、大抵の場合に、自信を傷つけられるということのない兵馬は、稽古をつける気位で立合ってみました。

無論、兵馬の予想通りで、術としては、さのみ怖るるにも足らないが、気象の烈しいことが太刀先に現われて、美音の気合と共に、息をもつかず打ち込む気力は侮り難い。この稽古を終ってから、右の貴公子が、兵馬に挨拶をして言いました、

「そなたほどの年で、それだけに使える人は全く珍しい、どこで修行なされたか、流儀は直心蔭じゃの」

「はい」

「そなた、剣術ばかりか、他の武芸は?」