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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

33 不破の関の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,467 字 · 168 页

青空文庫

それは、つもってみても分らず、苟もファッショイ、三ぴんの余党でない限り、道庵に対して、この辺にそう魂胆や遺恨を持っている者はないはず――

また、道庵先生がもう少し若くて、別嬪ででもあるならば格別――そうでなくても、もうすこし福々しいお爺さんででもあるならば、さらわれる方も覚えがあり、さらう方もさらい甲斐があろうものを、大江戸の真中へ抛り出して置いても拾い手のなかったじじむさい親爺が、尾張の清洲へ来てさらわれるようなことになろうとは信ぜられぬことでした。

だが、世間には、好んでお医者を担ぎたがる悪趣味者がある。

京都のある方面の、仏法僧の啼く山奥へ医者を担ぎ込んで、私闘の創を縫わせた悪徒もある。

或る好奇なお大名が、相馬の古御所もどきの趣向をして、医者を誘拐して来て弄んだというようなこともないではない。そのいずれにしても、道庵の蒙る迷惑と困却とは、容易なものではないことは分りきっています。そこで、走り行く雲助霞助の中にいて、駕籠越しに有らん限りの号泣と、絶叫とをはじめました、

「友様――後生だから助けてくれ!」

八

熊を洗濯することに我を忘れていた米友は、道庵先生の九死一生の絶叫を聞き漏すことではありません。