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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

「ありがとう――」

「明日あたりから君、畜生谷が現われるんだぜ、しっかりし給えよ」

「畜生谷とは?」

「畜生谷を知らんのか――白山白水谷のうちに、有名なる畜生谷というところがある――そこへ落ち込んだら最後、浮み上れないのだ」

百二十二

「さようなら、宇津木」

「宇津木君、失敬」

二人は、ついに行ってしまいました。

兵馬は柱にもたれたまま、それを引留めたい心でいっぱいでありながら、ついに戻れという機会を逸してしまいました。

それは会話なかばに、とても眠くなって眠くなってたまらなくなり、うっとりと失神状態に陥ったところを、二人に無造作に立ちのかれてしまった。そこに気がつくと、何とも言えない空虚を感じ出して、そのままその座を飛び立って、戸の外へ走り出しました。

「おーい、仏頂寺君――丸山君」

声を限りに呼びながら、兵馬は二人のあとを追いかけたのです。

無論、そのくらいですから、草鞋をつける余裕もなく、有合わす履物もなく、戸を押したか開いたかそのこともわからず、仏頂寺と丸山とが、東へ行ったか、西へ行ったか、その痕跡に頓着もなく、兵馬はやみくもに走り出したのです。