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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

。

ところがその素晴しい喜田貞吉博士でさえが、安達の黒塚には兜を脱いでいる――すなわち右の喜田貞吉博士は、どうした拍子か、安達の黒塚の所在地は、陸前の名取郡の今の秋保温泉のあたりがそれだと明言してしまったものである。そうすると、仙台の国学者小倉博翁をはじめ、藤原相之助、浜田廉、宗形直蔵というような人たちが、否、黒塚は決して陸前の名取郡ではない、岩代の安達郡であると考証したものである。これには、さすがの喜田博士も参って、神妙に兜を脱いでいる。小倉氏のような隠れたる学者の存在は光であるが、これに対して、神妙に兜を脱いだ喜田博士にも学者らしい率直さを見る。

そういうような次第だから、仙台からは数百里を隔てた武蔵野の中の貧家に生れて、よし、盗みの方にかけては博士以上の天才とはいえ、学問としては、古状揃えか、村名づくし程度以上に出でない七兵衛が、黒塚の所在に錯覚を起したからとて、その無学を笑うのは、笑う方が間違っている。

なんにしても七兵衛は、奥州へ来て、広い原をやみくもに歩かせられて、それが一途に安達ヶ原であることに心得ていた今までの錯覚を、ここで清算し、その安達ヶ原は当然、仙台より西の部分にあって、自分がとうの昔に卒業している。