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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
「狐狸の仕業かな」
と柳田平治が、長剣をちょっと撫でてみました。
「まあ――もう少し行ってみよう」
「御用心なさい、そこはもう沼つづきですから、先生」
「なるほど、水がここまで浸入して来ている、ここを一廻りせんと、あの森へ出られない」
「橋はありませんか」
「ないね」
「廻りましょう、僕が先に立って瀬ぶみをいたします」
「気をつけて行き給えよ」
二人は沼を隔てて、森と、火影と、音楽とを、眼の前にあざやかに受取りながら、地の利を失ったために、その水の入江と、沼の半分を廻らなければならなくなりました。
蘆と、菱とを分けて、水に沿うてめぐり来ってみると、やや暫くして、先に立った柳田平治が突然声を揚げました。
「先生、舟がありましたぜ、舟が」
「なに、舟が」
柳田平治が立っている入江のある地点に、朦朧として小舟が浮き捨てられてある。
「それは、いいあんばいだ、渡りに舟」
一議に及ばず、二人はその舟を分捕って飛び乗り、この入江と沼とを押切ろうとして、ふたり船べりへ寄って見て、田山白雲が、はじめていぶかしげに、
「おや、この舟はおかしいぞ」
「どうしたのです、先生」
「見給え、世間普通の舟ではない」