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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
38 農奴の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,484 字 · 60 页
の百四回のところから見るとよくわかる。
神尾は生れながら、百姓というものは人間ではない――ものの如く感じている。
それは当然、階級制度の教えるところの優越性も原因であることには相違ないが、それほど神尾というものが百姓を、忌み、嫌い、悪み、呪うというのは、別にまた一つの歴史もあるのです。
それは、神尾の先祖が、百姓を搾ろうとして、かえって百姓からウンと苦しめられ、いじめられている。神尾の祖先のうちの一人が、自分の放蕩濫費の尻を、知行所の百姓にすっかり拭わせようとしたために、百姓一揆を起されて家を危うくしたことがある。
体面の上からは勝ったが、事実に於ては負けた。領主としての面目はかろうじて立ったが、内実は百姓の言い分が通ってしまったのだ。
だから、心ある人は、それから神尾の家風を卑しむようになっている。
その歴史が、今も神尾を憤らせている。百姓というやつは厳しくすれば反抗する、甘くすればつけ上る――表面は土下座しながら、内心ではこっちを侮っている。最も卑しむべき動物は百姓だ――これには強圧を加えるよりほかに道はないと、それ以来の神尾家は、代々そう心得て百姓を抑えて来ていた。