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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

41 椰子林の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页

青空文庫

二十八

「お松さん、わたしはここで、一つ、あなたを驚かすことを言ってみたい」

と、ある地点へ来て、駒井は足をとどめて、椰子の大木の一つに身を釘附けにしたようによりかかって、こう言いかけられたお松は、全身の鼓動を覚えたけれども、それでも度を失うようなことはなく、むしろ、待っていましたというような大胆な心をもって、駒井の前に立ちはだかりました。立ちはだかったというのは、不作法千万な振舞でありますけれど、お松としては、それほど大胆になり得た気分を、自分ながら誇りたい心持で、

「何を仰せられましても、驚きは致しませぬ」

「本来は、驚かすつもりもなく、驚くべき何事もないのですが、少しもわたしを知らない人は、狂気の沙汰と思うかも知れません」

「殿様、あなたはわたしの唯一の御主人様でござります、御主人から仰せを蒙って、それで驚く家来はございません、この場で命を取るぞと仰せられましても、それに驚くような家来は、家来でございません」

「いいえ、そなたは、わたしの家来ではない、わたしはもう疾うの昔に、人の主人たる地位をのがれた、同時にただ一人の人をも家来とし、奴隷とするような僭上を捨てた、わたしを殿様呼ばわりするは、それは昔からの口癖が、習慣上から廃らないのだから、急に咎めようとも思わないが、本来、わたしはもう疾うに