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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

41 椰子林の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页

青空文庫

毛唐の真似をして、束髪、女洋服ですましてみたかと思うと、もうがらり変って、おやじをあやなした時分の大時代の姿で納まり込んでいる。気まぐれな奴だと、神尾は横目で、じろじろと丸髷をながめながら通ると、お絹は自分の部屋で、ひとりギヤマンを研いていたらしい。

幾つものギヤマンをそこへ並べて、その傍らには中形の壜がある。ちゃぶ台の上へそれを置いて、

「よくお帰りになりましたね」

「ああ、感心に帰って来たよ、ほめてもらわなくちゃ」

「賞めて上げますとも、坊やはこのごろお行儀がよくなりました」

「全くその通り、実は鈴木安芸守をたずねたまでは至極無事だったが、あれから計らず悪友に逢ってな……」

「悪友――でも、あなたに善友というのもありましたか知ら」

「ばかにするな、今日は善友も善友、輪王寺の執当を二人までたずねた上に、重役の鈴木安芸守と真剣な話をして来たのだ、正真正銘の精進日なのだ、ところがきわどい時に昔の悪友、土肥庄次郎というのにつかまって、松源で一杯飲まされた」

「それから?」

「それからお定まりの吉原へ誘惑を受けたが、待ってる人があると言って、きっぱり断わってここへ帰って来たのだ、どうだ、有難い心意気だろう」