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てんさいけいまい
天才兄妹
野村 胡堂
「少女倶楽部」1928(昭和3)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,891 字 · 20 页
ベーカーはこう申します。
「あいつ等は、私の身につけて居るものは、何も彼もしらべました。帽子から靴から、弗入から、あらゆるかくし、トランクの中まで、私の留守をねらってそっと探したり、私をおどかして大ぴらに検めたり、あらゆる方法を尽して調べましたが、宝石はどうしても見付かりません。あいつ等の目を通さないものは、私の大事に持って居るヴァイオリンだけになりました。現に、昨夜汽車の中で、立花さん兄妹が食堂へ入って居る間に、私へピストルを突き付けて、ヴァイオリンの箱を開けさせようとした二人の男女は、その強盗団の一味のもので、私も一時は危うくなりましたが、その内にお二人が帰って来たので、あの場は無事にすみました。が、あのままホテルへ帰ると、私の後をつけて来て脅迫するのは判り切って居ります。立花さんには、本当にお気の毒でしたが、私の国の運命にはかえられません。よく似て居たのを幸いに、食堂にいらっしゃる内にヴァイオリンの箱をすり換え、私は立花さんのストラドヴァリウスを持って、立花さんには宝石の入ったヴァイオリンをお預けしたのです。提琴家ほどヴァイオリンを大事にするものはありません――立花さんの手にあれば大丈夫と、私は安心して取換えたわけです。