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てんさいけいまい
天才兄妹
野村 胡堂
「少女倶楽部」1928(昭和3)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,891 字 · 20 页
ベーカーも碧い眼を見開いて、酔い心地に聞いて居ります、武士の名刀、騎士の良馬と同じことで、ヴァイオリンを弾く者に、良いヴァイオリンほど尊いものはありません。
読者の中には、知って居られる方も沢山あるでしょうが、ストラドヴァリウスというのは、今から二百六七十年前のイタリーに住んで居た人で、ヴァイオリン作りとしては、古今独歩の名人と言われた人です。
この人の作ったヴァイオリンで、今の世に残って居るのは登録されたように、数や持主までも判って居る位ですから、一つ売物が出たと言っても、音楽家の騒は大変なものです。
余談はさておき――
「私の友人はその名器を三万円で手に入れ、命よりも大事に日本へ持って帰りましたが、何んとした不幸でしょう。永い間の旅行で身体を痛めた為に、日本へ着くと直ぐ、重い病の床に就いて、枕も上らない有様。折角買った名器ストラドヴァリウスも、とうとう弾いて見る折もなく、枕辺に飾って、それを眺めて居るだけでした」
「お気の毒なことです、名器の尊いことを知るのは、本当の芸術家だけですが、私も何んかしら、お友達の悲しい心持がお察し出来るような気がします」