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てんま

天馬

金 史良

「文芸春秋」1940(昭和15)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,407 字 · 70 页

青空文庫

そして田中に助けを求めれば凡ては巧く運ぶに違いない。そう思うと何だか自分がお寺へ預けられるということが、急に哀れな喜劇のようにさえ思われてならなかった。自分もあの瓢のようなぐりぐり坊主になって袈裟を身にまとい、鼻汁をよく啜り上げる正覚禿坊主の前で、毎日毎晩数珠を首にかけて神妙に禅をくまねばならぬとは。彼はこの悲痛さを打消すように妙に喉にからんだ甲高い声を出して一人でに笑ってみた。だが彼は自分の笑い声にびっくりして慌てて肩にかけていた桃の枝を胸に抱きしめじっと息をころした。暫くそうしていると気はしずしずととおのいて行き体じゅうがとろけ込むようで、ふっと幽かな光芒を帯びていろいろな女の幻影がとりとめもなくちらちら動いて見える。×××××(五字欠)メロン頬の女。その陰で女流詩人がにっと笑っている。口を心持ちすぼめて明日の朝行くわと囁くのさえ聞えるようである。そうだ、今夜はどうしてもあのじめじめした下宿の穴部屋へ戻って彼女を待たねば……。すると彼女の水で洗ったような××××××××(八字欠)が空間に浮び上り、それがだんだんと腕をひろげて熱いむせるような息を吹きかけつつ自分の体をおそうて来るような錯覚が起きた。