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「ダブックウ」ひょうりゅうき

「太平洋漏水孔」漂流記

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,264 字 · 37 页

青空文庫

しかし、渦は依然としておなじ方向へ巻いている。空気は、湿潤高熱、湯気のようである。けれど二人は、この熱気のために気が可怪しくなったのではないのだ。

キューネが、この湿熱環に堪えるため、窮通の策をほどこした。それが、もしも成功すれば起死回生を得る。

「うまく往ってくれ。ただハチロウのため、俺はそう祈る」

キューネが、しだいに朦朧となる頭のなかで叫んでいた。

「おれは、この湿熱環をいかに凌ぐか、考えたのだ。しかしそれには、毒をもって毒を制すよりほかにない。この摂氏四十五度もある大高温のなかにいれば、まずなにより先に気が可怪しくなってくる。

しかしその前に、こっちから進んで人工の狂気をつくったら、どうだ。一時、この高温を感じないように気を可怪しくさせ……そのまま湿熱環を過ぎて緩和圏に出たとき……ハッと眼醒めるようにしたら……」

それが、いま三人が嗅いでいる“Cohoba”の粉だ。これは元来ハイチ島の禁制物、“Piptadenia peregrina”という合歓科の樹の種だ。土人は、そのくだいた粉を鼻孔に詰めて吸う。すると、忽ちどろどろに酔いしれて、乱舞、狂態百出のさまとなるのだ。