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たいへいようまじょう
太平洋魔城
海野 十三
「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1939(昭和14)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 93,147 字 · 187 页
どこからともなく、熱帯果実の高い香がただよってくる。
太平洋横断アメリカ行の飛行艇サウス・クリパー号は、湾内にしずかに真白な翼をやすめていた。それはちかごろ建造された八十人乗りの大飛行艇で、アメリカの自慢のものだった。
太刀川は、四ツ星漁業会社の出張員という身分証明書で、この飛行艇の切符を買うことができた。
七月三日、いよいよサウス・クリパー機の出発の日だ。
太刀川は、朝九時、一般乗客にうちまじり、埠頭からモーター・ボートにのって、飛行艇の繋留されているところへ急いだ。
モーター・ボートが走りだしてから、太刀川はあたりをみまわしたが、まるで人種展覧会のように世界各国の人が乗りこんでいる。アメリカ人イギリス人はいうに及ばず、ドイツ人やイタリヤ人もおれば、インド人、黒人もいる。また顔の黄いろい中国人もいた。日本人は、彼一人らしい。
「ああ痛! ああ痛! 足の骨が折れたかもしれねえぞ。だ、誰だ、俺の足を鉄の棒でぶんなぐったのは」
太刀川の耳もとで、破鐘のような大声がした。それとともに、ぷーんとはげしい酒くさい息が、彼の鼻をうった。すぐ隣にいた大男の白人が、どなりだしたのであった。