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たいへいようまじょう
太平洋魔城
海野 十三
「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1939(昭和14)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 93,147 字 · 187 页
このさわぎがはじまってから、一度も姿を見せないのには、何かわけがありそうである。
「さあゆこうぜ、リーロフ」
太刀川は、顔色もかえず、大男のリーロフをかえりみていった。
「うん、ゆけ。貴様がさきへ」
リーロフは、注意ぶかい目つきで、太刀川の方にあごをふった。
「僕は鋼条とペンチを持つ、リーロフ、君は手斧だ」
「おれが手斧を持つのか。うふふふ。それはたいへんいいことだ」
リーロフは、意味ありげに笑った。斧の刃は、するどくとがれていて、切味がよさそうなのが、何だか不気味である。
「リーロフ、さあ、僕につづいて、すぐその天井の窓から、胴体の上へはいだすんだ」
翼のうしろに開く窓があった。そこから艇の胴体の外へ出られるのだった。太刀川は、ロープのはしを座席の足にしばりつけた。そして自分で窓をひらいた。艇員たちが、はっと顔色をかえるのをしり目に、さっさと艇外へはいだした。とたんに横から、張板のようにかたいはげしい風が、彼の体をぶんなぐった。飛行眼鏡さえ、もぎとられそうで、しばらくは目が見えなかった。風にあおられ、ぐーっと、体がもちあがるのを、一生けんめいにこらえて、胴体の上にうえつけられている力綱の輪をにぎる。