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うしなわれたはんしん
失われた半身
豊島 与志雄
「ユニヴァーシティー No. 2」1949(昭和24)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,545 字 · 21 页
何か、ちょっとした一角が、崩れかけてるようだ。それは重大なことで、もしその一角が崩れれば、全部が危殆に頻する。おれの生活全体が、おれの思想全体が、がらがらと崩壊するかも知れない。しっかり持ちこたえなければならなかった。然し、どうしたらいいか。頭を首の上に持ち上げてるのさえ、容易なことではなく、おれはますます首垂れていった。
ぽつりと、遠くに灯が見え、すぐに消えた。それが、おれに恐ろしい衝激を与えた。おれはくるりと引返して、家に戻っていった。力が出て来た。そうだ、おれは栄子殺害の計画を考えていたのだ。児戯に類する。立ち直らなければいけない。然し、なにか忘れものをしてるようだ。あ、戸川が言ったのだった。彼だって忘れものをしてるし、おれだって威張れやしないが、忘れものぐらい……。いや違う。どこか不具だったんだ。半身を取り落していた感じだ。回復しなければ……。
雨は少し大粒になってきた。もっと降れ、ざーっと降れ。だがおれはもう恐れずに自分の室へ戻っていった。