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うしなわれたはんしん

失われた半身

豊島 与志雄

「ユニヴァーシティー No. 2」1949(昭和24)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,545 字 · 21 页

青空文庫

」

彼女の眼ばかり大きく、すっかり蒼ざめている。

わーっと喚いて、おれは彼女に飛びつき、その首にかじりついた。だが転がって、もう起き上れなかった。

その夜遅く、或は明け方近かったかも知れないが、おれは起き上って、ひそかに雨戸を開き、庭に出で、木戸から外へ忍び出た。栄子は酔いくたびれて眠っており、家の人々も眠っており、どこの家も眠っていた。おれ一人眼をさましたのが不思議だ。冷たい小雨が降っていた。

雨の中を歩きながら、おれは一生懸命に考えていた。何を考えたのか自分でも知らない。突然、頭の中にぼーっと明りがさしたような気持ちでおれは駭然として立ち止った。

栄子殺害の計画を、おれは考えていたのだ。然しどうも、おれ自身が考えていたのではなく、他の、何物かが考えていたらしく思える。何物なのか。焼酎の酔いと同じような、ヒロイズムの残滓か。いや、そんなけちなものではない。とてつもなく大きなものだ。

頭の中の明るみが、ぱっと燃えだして、大きな焔を立て、すぐに燃えつきて、真暗になった。何も見えなかった。おれはまた歩きだした。躓き躓き歩いた。

体も神経も精神も、ひどく疲れきってる感じだ。