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うしなわれたはんしん
失われた半身
豊島 与志雄
「ユニヴァーシティー No. 2」1949(昭和24)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,545 字 · 21 页
学校で、おれに言葉をかけて何か話をしたがってる様子だったのを、おれが素気なく振り切った。そのことが原因だったのだろうか。そのくせ、彼はクラスのまあ秀才で、週に一回はたいてい逢ってる、ということははっきり分っていたのである。だから実は、彼に敬意を表する気持ちよりも、久闊を叙する気持ちから、ウイスキーをふるまってやったものらしい。
おれの気附薬を混じたコーヒーを、彼はうまそうもなく、然し恐縮そうにすすった。酒は好きでないらしい。長髪は油っ気が少いが艶がよく、痩せがたの顔は蒼白く、精神も蒼白いようだし、近眼鏡の奥の瞳は美しく澄んでいる。その顔を、おれはじっと眺めた。
「今日、学校で、僕に何か用があったんじゃない。」
彼ははにかんだような微笑を浮かべて、頭を振った。
「いや、用があったんだろう。」
揶揄するように言ったつもりだが、彼は突然、きらりと光る感じの眼をおれに向けた。
「用というほどのことではないが……ちょっと、永田のことを聞きたいと思って……。」
「永田って、あの、永田澄子のことかい。」
「うむ。」
それは、意外だった。永田澄子というのは、同学の二人の女学生のうちの一人で、髪をおかっぱにした小柄な、まあ少女だ。