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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
12 乞食志願
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,681 字 · 22 页
但し、二人共純潔であるにしては、あまりにも若く、そしてあまりにも美しく、周囲の事情と境遇が、あまりにも刺戟的であったことは事実でした。
四日目の朝、形ばかりの食事を済ませると、
「芳江」
「ハイ」
「私はもう帰らなければならぬが」
当然来なければならぬ時が来たのです。大火が納まって、江戸の町々が元の静けさに返ると、伊予守忠弘は、幸いその辺は劫火を免れたという半蔵門外の上屋敷に駆け付けて、病める父左近太夫を見舞わなければならなかったのです。
「又、いつお目にかかれるでしょうか」
「いつでも、お前の望む時来よう、イヤ、それより、明日にもお前を屋敷に引取ろう」
「お屋敷と仰しゃるのは」
「松永町の焼けたのは中屋敷、――上屋敷は半蔵門外にある、高力左近太夫――それは私の父親、私は伊予守忠弘」
「えッ」
何気なくいう忠弘の言葉を聴くと、芳江はサッと顔色を変えました。
「ところで、お前も唯の町人の娘ではないようだ、親は? 兄は? 何んと申す」
「それはあの」
「そして家は何処だ」
「それは申上げ兼ねますが」
「何んという」
それは思いも寄らぬ気まずい別れでした。忠弘の身分が、並々ならぬことは、芳江も大方察していたようですが、それが肥前島原四万石の城主、高力左近太夫の跡取で、伊予守忠弘と名乗られると、俄然として態度を変えてしまったのです。