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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

05 代作恋文

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,830 字 · 24 页

青空文庫

東野南次は黙って首を垂れました。疑う余地もありません。幽里子が命をかけた恋人は、何んと恋文を代作した、東野南次その人だったのです。

「東野先生――私はこの手紙を見付けましたので、ついでに娘の日記も読んで参りました。何処かの講演で先生にお話を聞き、それから思いつめたようで御座います」

「――――」

「それから先生のお書きになったものを全部買い集めて読んだ上、いろいろ考え迷った揚句、先生のところへ手紙を書いて頂きに参った様子で御座います」

礼子の静かな説明も、東野の耳にはもう入りません。

「私は、私はそんな値打のある人間ではない、私は愚劣で野蛮で、仕様のない人間です、あの清らかな幽里子さんの愛に値するような人間ではありません」

「まア、先生」

「私はこれっきり姿を隠します。幽里子さんには宜しく仰しゃって下さい」

不意に起上って入口の方へ歩いて行く東野南次、その憑かれたような姿を見ながら、母親の礼子には止める術もありませんでした。

が、扉を開けた時、東野は凝然と立止りました。そこにはまだ治り切らない幽里子が、大きな悲しみに打ちひしがれて、大きな眼を見開いたまま立っているではありませんか。