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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

05 代作恋文

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,830 字 · 24 页

青空文庫

四

こっちは命がけだ」

半沢伝次は紙幣と指環をかき集めて、元のかくしに捻じ込むと、東野南次を睨み据えたまま、静かに扉の外に消えてしまいます。

四

その後ヨタ者の半沢伝次は姿を見せませんが、困ったことに、幽里子もそれっ切り来なくなってしまったのです。

淋しい、焦々した日が三日、五日、十日とたち、世界は次第に夏らしくなりますが、あの落着いた青磁色の乙女は、それきり影も見せてはくれません。

東野南次は階子段を登る人の足音に神経を立てたり、窓から見える銀座の路地の一角の、若い女の姿に胸轟かせたりしましたが、残念なことにそれはことごとく似もつかぬ通行人で、東野南次の待っている、香ぐわしい幽里子、――あのお伽の国の王女のような、恋の麗人は消息を絶ってしまいました。

東野南次は卓に向って万年筆を執って、誰のためともわからぬ、十一本目の恋の手紙を書きました。綿々たる情緒、燃ゆる思慕、夢みるようなあこがれ――それはすべてかつての幽里子が口述したものではなく、東野自身の、消え去った麗人への情熱になってしまうのもまたやむを得ないことでした。

翌る日は十二本目のを、そしてそのまた翌る日は十三本目のを、それは長い長い手紙でした。