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ちぎりきぬ

契りきぬ

山本 周五郎

「ロマンス」ロマンス社、1949(昭和24)年10月~11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,757 字 · 66 页

青空文庫

そのほかにも、大槻、渡、鎌田などといって、顔触れは殆んど定っていた。おそらく『みよし』などへ来たのはこの仲間であろう。しかしおなつは武家の座敷には出なかったし、かれらの席へもたったいちど、それもごく僅かな時間しか出なかったので、おぼろげに衣巻の顔を覚えているほかは、誰ひとり記憶に残ってはいなかった。

精之助をはじめ、客の人たちはみんな、一種の尊敬と劬わりの態度でおなつに接した。この家の娘という感じでもなく、もちろん召使いに対する扱いでは決してない。衣巻などはずいぶん遠慮のないほうだが、それでもひと筋はっきりと隔てがあり礼儀を崩すようなことは少しもなかった。

身のまわりの世話をし始めてから、はっきりおなつにわかったことであるが、精之助のどこも正二郎に似てはいなかった。あの夜、廊下から簾戸越しに見たときは、正二郎さまの幼な顔に生き写しのようだった。あまりに似ているので息苦しくなったほどびっくりしたが、側で暮すようになって、おちついて見るとまるで違う。ふと微笑するときなどに、共通するおもざしが幾らかあるかもしれないけれど、それでさえ似ているというほどのものではなかった。