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ちぎりきぬ

契りきぬ

山本 周五郎

「ロマンス」ロマンス社、1949(昭和24)年10月~11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,757 字 · 66 页

青空文庫

身分は足軽にもせよ武士は武士という誇りがあって、ある点では寧ろ身分の高い武家よりきちんと育てられた。ひかえめな性質でいて、どことなく折目の凛とした挙措、そんなところが客の好奇心を唆るようであった。

おなつはすなおに席のとりもちをした。そのあいだに酒を飲めるだけ飲み、客と二人だけになるとわる酔いで苦しみだす、転々と部屋じゅうもがきまわったり、嘔吐したり、苦しがって泣き喚いたり、客を罵ったりした。

「ひどいやつだ、あんな女は初めてだ」

ひと晩じゅう介抱させられたうえ、罵られ乱暴をされて、こんなふうに怒って帰る客がある。もう決してあんな女には構わないと云いながら、次に来ると必ずまた彼女を呼ぶのであった。

「おい、こないだの晩のことは忘れちゃいないだろうな、ひどいめにあわせたぜ本当に」

「――ごめんなさい」

おなつは耳まで赧くなって俯向く。自分に恥じているのだが、相手はもちろんそうはとらない。またそうしているうちは際立った顔だちの、ことに眼が美しく、起ち居がきびきびしていて、しかもぜんたいがしっとりとおちついている。

「なにもそんなに固くなっていることはないじゃないか、さあ一ついこう、但し今夜は介抱はごめんだぜ」