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おくちちぶ

奥秩父

木暮 理太郎

「新家庭 夏期臨時増刊」1922(大正11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,255 字 · 11 页

青空文庫

それをぽつりぽつりと噛み切って穴から飛び出そうとする。一丈二、三尺は飛び上るが今一息という所で出られない。今度は太い綱を下して咬み付いた所を手早く曳き上げた、お犬さまの足が地に付いたと思う途端に早くも姿は掻き消すように見えなくなったという。老人は語り終ってから、あらたかな神さまですから御信心なされば屹度御利益がありますと付け加えた。

奥秩父には誇るに足る可き四つの勝地がある。山では金峰山、高原では梓山村の戦場ヶ原、渓谷では笛吹川の上流東沢と西沢、森林では入川谷の奥なる真ノ沢と股ノ沢に亙る一帯の大森林がそれである。この四つのものは何処へ出しても恥かしくない。それらに就いては既に幾度か紹介の筆を執ったことであるから、茲には略することにする。

奥秩父へ旅する程の篤志家であったならば、或は真に秩父の山水を知りたいと思う人であったならば、東沢西沢は別としても、其他の三者は是非とも探られんことを希望する。夫には四日あれば充分である。甲府方面から金峰山に登り、川端下より梓山に出て、十文字峠を踰え、栃本を経て帰京するか、又は之を逆に行うもよいであろう。斯くて初めて奥秩父の山水を大観したものと称して差支えないのである。