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おくちちぶ
奥秩父
木暮 理太郎
「新家庭 夏期臨時増刊」1922(大正11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,255 字 · 11 页
望の叶った嬉しさで胸が一杯になった為かも知れないと語り伝えられている。
これも同じ頃に信州中野の人がお犬さまを借りて急いで帰る途中、ふと彼の誡を忘れて茶屋に休んで昼食を遣った。横川まで来るとハッと気が付いて包を明けて見た、果して大事なお姿の札が紛失している。青くなって取って返し、先の茶店の附近まで来ると見慣れぬ小犬が紛失した札を啣えて人家の入口に立っている、そこで思い切って「三峰からお出になりましたか」と聞いて見た。すると小犬は見る見る大きなお犬さまの姿になって「ウオー」と答えたということであるが嘘のような事実であるという。
先年私が南日君と三峰へ行った時、神社の裏手の三峰村の老人に聞いたことがある。其老人は若い頃に一度お姿を見たことがあると話した。其話に拠るとお犬さまは、一本の木一本の草があれば、自在に身を隠すことが出来るので、容易に姿は拝めない。然し山に雪が積ると足跡が残る。其跡は犬よりも少し大きく、且蹼があるので足の指の間が切れていないという。或時老人が熊を捕る目的で一丈五尺許りの陥穽を掘って置いた。すると如何したはずみかその中へお犬さまが墜ちていたので、太い藤蔓で編んだもっこを入れて引き上げようとした。