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おんなけんし

女剣士

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页

青空文庫

分るか」

「分ります」

「小山内朝之助のタネを宿してよいと思うか」

「お父様のお心のままに致します」

「かたじけない」

朝之助は歌子をだきよせ、ポロポロと一生に一度の涙で顔をぬらした。むろん歌子は泣かなかった。さしたる感動もなかったのだ。父にしたがうのは彼女の当然であったにすぎない。

★

寺田は存八に負けた後も、一日も休むことなく道場に通っていた。縁談を拒絶されても、下男の存八に不覚の頭突きをぶちかまされて気を失っても、へこたれるような寺田ではなかった。腕ッ節は弱くても、心臓ではヒケをとらない。ひどい目にあうほど不敵になるのが彼の持ち前であった。

その寺田だが、あの時は、くさった。朝之助が旅立つ前に二人をよびよせて、いずれか上達の見るべきものがある方に娘を与えると約束をした時のことだ。まさかに前科四犯のコソ泥をムコの候補に加えようとは思い及んでいなかったからだ。

しかし、そうときまれば、覚悟はある。負けない気持は旺盛な寺田のことで、勝つためにはどんな苦労もしてみせるぞと腹をきめた。ところが、さて、存八と第一日目の練習をやってみると、おどろいた。