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おんなけんし
女剣士
「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页
なお怖しい。
「見事なものだな。オレはただカタズをのんでウツロに見つめているばかり。歌子のどこにも隙というものがない。それにひきかえ、このオレのダラシなさ。無念といえば、あまりにも無念だが、これもオレの至らぬためだ。五歳にして父に剣の手ほどきを受けてより四十有余年カンナン辛苦の修業の果てに得たものを一朝に失う不覚。思えばこれもここに無用の一物があるためだ。これこそはわが剣のためには無用のもの。この悟りこそは天の声だ。いま歌子を谷底にさしむけられたのは祖先の霊であろう。ああ我あやまてり。さらば、この機を失するなかれ」
彼はにわかに立上り、岩の上に脱ぎすてた着物の上にのせておいた小刀をとってサヤを払い、かの水中の岩の上へ戻ってきた。岩にまたがり、しなびた皮を充分にひっぱってその根本よりブッスリ切り落す。傷口を押えて無念無想、ジッと水中にうずくまる。約一時間の余もジッとそうしていた。
水中よりあがると松ヤニをとって傷口にぬりこめ、かの切りとった一物を指につまんで歌子のところへ戻ったのである。
「歌子よ。そちの教訓、身にしみて忘れぬ。しかし、そちもこのたびは見事に上達いたしたものだな。