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じょよう
女妖
江戸川 乱歩
01 前篇
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,691 字 · 20 页
もう彼女はドアのところへ現われていた。困ったように顔をしかめていた。
「すっかり忘れていたのよ。お友達と約束がしてあったの。今来るっていうのよ。もうこの近くまで来ているの。そのお友達にとっては、だいじな用件なので、すっぽかせないわ。ね、あすの晩来て下さらない」
婦人はひどく慌てているように見えた。そそくさと寝室の中へ引っ返して、何かを手に持って、浩一の前に来た。
「これお小遣、今夜はどこかに泊ってね。それから、これ、この部屋の合鍵。入口でことわらなくてもいいのよ。だまって二階にあがって、このドアをひらけばいいの。あすの晩九時よ。早くてもおそくてもいけない。ちょうど九時きっかりよ。わかって?」
千円札が十枚ほどあった。そして可愛らしい銀色の合鍵。あすの晩、婦人が部屋にいるとすれば、別に合鍵の必要はなさそうであった。それとも、何か理由があったのか。あるいは、「合鍵を渡せば心を渡す」という、恋愛遊戯なのか。浩一はどちらでも構わなかった。合鍵というものの秘密性が好もしかった。それに、今夜はもう激情に耐えられなかった。あすの晩の方がいい。子供の頃からの幻に、やっとめぐり会ったのだ。